浦和駅東口から10分程歩いたところに「藤井利子・上原尚美スタジオ」はあります。表通りから角を一つ折れて、一方通行の道を少し進んだ左手に、周囲の家々と並んで静かにたたずんでいます。勝手口のようなドアを開けて中へ入ると、上がり端の向こうに開けた空間と板張りの床、鏡張りの壁にバレエレッスン用のバーなどが見え、ここがダンススタジオなのだと実感します。下駄箱の左上のあたりに1枚の写真が飾られています。A4くらいの大きさの古そうなモノクロ写真で、稽古場と思しき場所の中央でひょっと飛んでいる故・藤井公と、その周りにそれを驚きと敬意が入り交じった様子で見ている門下生たちが写っています。モダンバレエ、モダンダンスにおいて大きな功績を残した偉人の才気がにじむ印象的な写真です。スタジオへ足を踏み入れると、床板や壁に刻まれた細かい傷や黒ずんだ跡が見えてきます。天井の梁の部分には増改築した跡が見られ、四方の壁や棚にはたくさんのトロフィーや表彰状が並んでいます。北側の壁面には今では珍しいデザインの磨りガラスが並び、それを通じた柔らかい光が、このスタジオに積み重ねられた時間と記憶の凹凸を静かに照らしています。
2013年5月26日、この場所で「サツキバレノシタ、ユレルハンモックヲ」という作品の公演が行われました。この作品はダンサーの江積志織、高橋純一、藤井彩加、電子音楽家の中村隆行、パフォーマンスアーティストの野本翔平の5名によって共同で創作されました。異ジャンルの表現者によるコラボレーションという段階から、もう一歩踏み込んで一つの作品を作ろう、という意識のもとで作られた今作は、ダンスと電子音楽とパフォーマンスアートによって構成され、台詞はなく物語もない、約1時間の抽象的な作品でした。
長年このスタジオで創作活動をしてきた江積、高橋、藤井によれば、この場所を公演の舞台に使ったのは今回が初めてとのことでした。歴史と実績のあるスタジオであっても、今はなかなか生徒が集まらず、厳しい状況にあるそうです。そういった現状に対して何か新しい試みをしていかなければという意識も、今回の公演を企画するに至った理由の一つだったそうです。
今作における中村、野本のように、これまでこのスタジオと縁のなかった人を参加させることで、外部の視点を取り入れ、この場所をより開かれた場としても機能させていく、というのは、このスタジオの新しい可能性を探る上で有意義な試みだったと思います。
今回の公演は、出来事としては成功したと思います。ただ、作品自体の出来に関してはまだまだ未熟な部分が目立ちました。出来事としての意義だけでなく、作品としての面白さをいかに追求していけるかが、今後の課題でしょう。(S・N)
秋谷豊、立原道造、山本太郎という3人の詩人による詩と、トルストイが民話をもとに書いた話とを朗読したCDを制作しました。
SMFには、美術や文学や建築やダンスなど、いろんな分野の人が集まっています。そこで「重本惠津子さんがすてきな声をしているので朗読をお願いして録音したい」とつぶやいたら、作曲家が「僕が所属する大学のスタジオで録音してあげよう」、デザイナーが「CDとジャケットをデザインしてあげよう」ということになり、すてきなCDができて、SMFの第1号出版物になりました。
朗読の重本惠津子さんご自身もマルチな方です。もともとはものを書く文学の人でしたが、蜷川幸雄さんが立ち上げた高齢者の劇団「さいたまゴールド・シアター」の最高齢の女優としても存在感のある活躍をされています。
秋谷豊と山本太郎は詩人であり、登山家。立原道造は詩人であり、建築家。
「マルチな才能」というようなテーマでCDを構成したわけでないのですが、結果としていかにもSMFらしい、朗読者や詩人をたどればさらにいろんな輝きを汲みとれるCDになりました。(Y.W.)
(文中、「作曲家」は柴山拓郎さん、「大学」は東京電機大学、「デザイナー」は中村隆さんです。)
このCDは埼玉県立近代美術館(tel:048-824-011)のミュージアムショップで制作実費程度(1枚500円)で限定頒布しています。ご来館が難しい方には、通信販売もお受けしています。
ご希望の方はSMF事務局(SMF.info@artplatform.jp)までお問い合わせください。なお9月2日以降の美術館休館中も、通信販売は上記で受け付けます。
SMFと北浦和西口銀座商店街が協同制作した、アート&地域活性型キャラクター。北浦和と犬(ワン)をかけた、愛称は親しみやすく、なにやら人気者になる予感が!
絵を描くことが得意で、楽しいことが大好き。自慢の嗅覚でまちのステキや面白情報を探して、お伝えするのが任務です。これからも「きたうらワン」をよろしくワン!