SMF PressVol.4(2011.1.11)表面

巨大コタツで本気アートの熱い議論
SMFラウンドテーブル2010 速報

暮れも近づいた12月18日、埼玉県立近代美術館の講堂には、一風変わった熱気が立ちこめていました。演壇上も含めて会場には5台のお手製の巨大コタツが置かれ、色とりどりの古びた毛布やくたびれた掛け布団がにぎやかでざっくばらんな雰囲気を増幅しています。飯場のメリークリスマスといった感じで、お茶碗を叩く音でも聞こえてきそう。何かがはじまりそうな雰囲気のこの会場設営は、企画協力のキタミン・ラボ舎さんの発案です。

このコタツリーグに集ったのは、埼玉県を中心にユニークで意欲的なアート活動を展開するおよそ50名の多士済々のメンバー。午前中には、都合9件の活動事例紹介、午後はwahの南川憲二さん、KOSUGE1-16の土谷享さん、port B の高山明さんの3名のアーティストから、それぞれの方法論やプロジェクトについて話を聴き、その後、3班に分かれてグループミーティングを行うという流れで、刺激に富んだ、密度の濃い、また本気の話があちこちで交わされる、貴重な機会となりました。

ラウンドテーブル2010会場
熱気?につつまれた会場

いずれも中身の濃かった午前の発表からあえて一例を挙げると「ボクが南浦和アートセンターです。・・・南浦和は都内在住者からは遠いイメージがあり、ここを拠点に人を呼ぶイベントを行うより、ボクの部屋をネット放送局にして活動していこうと思い、その一環としてブログを作りました。その記事のうち一つはただみんなで家を掃除しただけの“イベント”の記録などですが《サイタマックリーン大作戦》のように、名前を付けて、記事を書き、写真を載せるようにして記録を残すと、後から振り返ると、中身が何であれ“何か活動をやっている”という感覚に陥ってしまう、さらにそれは誰でもアクセスできる状態で一般公開されているブログです。新聞、テレビなど既存のメディアの権威がどんどん弱くなっていると言われる中で、このような感覚って結構面白くて、色々と考えさせられる事があると思います」(南浦和アートセンター代表・安野太郎さん)といった具合です。

3人のアーティストが壇上のコタツに潜り込んで、午後の部もますます白熱です。もっともお三方ともアートやアーティストという呼称に余りこだわりはなく、制度化された既存のアートの枠組みというのをいかに脱臼させるかというようなプロジェクトを展開してきたという点では共通しています。もちろん美術館に対しても「美術館で見るのは好きだけど、自分がやるところじゃない」とか「たかが美術館ができて50年ですから」などと、遠慮会釈なしです。

ラウンドテーブル2010会場
左から南川さん、土谷さん、高山さん、進行の五十殿さん

《川の上でゴルフをする》とか《地面の中の家がある》といった突拍子もないアイデアを実際にやってのけて、「やってみてから何が面白いかを感じていく」という南川さんらwahのダイナミックな行動力に笑顔で感動。「ご近所との持ちつ持たれつの関係が好ましい」、「アートの分野では作る人しか育ててこなかった。見る人、支える人を育てることも必要で、逆にまた見る人が作る人を育てることにもつながる」という土谷さん。彼の《巨大紙相撲》は、そのような仕掛けと構造を持った複合ワークショップでもあります。《個室都市 東京》、《完全避難マニュアル東京版》など日常空間と芸術空間を攪拌する過激な作品を展開する高山さんは「お客さん自身が、パフォーマーであり、観察者であり、ジャーナリストや報告者にもなる仕組み作りを考えてやっています」と語る。

この3名をそれぞれ中心としたグループミーティングも白熱しました。以下、アンケートを含め印象に残った言葉の一部を拾ってみます。「アートはまちの中に新しいレジェンドを作っていけるんじゃないか。その土地にしかないものを引き出して、その土地の人たちと何かを作っていく中で、最初からそこにあった既成の概念を打ち壊して新しい概念を作っていく。それが次に続く伝統になっていくというような、何かを作れる力がアートにはあるんじゃないか」、「ただ置いておくだけではアートにならない。本気でお節介をする人が必要」、「まちづくりのためとか地域や市民のためというのは胡散臭い。それに関わって自分がどう変わったかが基準であるように思う」、「美術館を使いこなす時代が来ている。アートにはシステムを再構築する力がある」、「このままこのトークをラジオ番組にするというアイデアを出して、月一回くらいみんなで集まって“表現の未来”について語り合いたいな」、「顔の見えるところで深い話ができた」・・・ 朝10時半に始まり、どっぷり暮れてもまだまだ熱いSMFラウンドテーブル2010は、舞台を交流会に移し夜更けまで続いたのでした。
(文責:M.N. / 進行・取材協力Y.A.・M.S.・S.N.・S.Y.・S.A.・T.S.・A.O.)

SAITAMA連携美術館情報

New Vision Saitama 4
静観するイメージ
埼玉県立近代美術館

ニュー・ヴィジョン・サイタマ4チラシ2011年1月29日〜3月21日に埼玉県立近代美術館(以下MOMAS)で、「ニュー・ヴィジョン・サイタマ4」(以下NVS4)が開催されます。
この展覧会は、MOMASで唯一シリーズ展開している企画展で、今回はその4回目。前回と同様に7人の学芸員が今一押しのアーティストを1人ずつ紹介する形で構成されています。選定基準は「埼玉にゆかりがある」ということのみ。様々な世代や作風のアーティストが集まりました。
副題にある「静観」という言葉には、「物事を静かに見守る/物事の奥に隠された本質的なものを見極める」という意味がありますが、選ばれた7人のアーティストの制作の姿勢から自然に立ち上がってきたものだとか。移ろいやすい現代アートの流行から一定の距離を置き、より本質的なものを求めて自らの揺るぎない制作を続けてきた、そんな共通点のある方々が揃ったのだそうです。それはまるで、MOMAS自体のあり方にも通じているかの様に感じられます。
MOMASで現代アートの展覧会を行う機会は、以前に比べ随分減ってきています。しかし、アーティストと学芸員が向き合って共に作り上げる展覧会は、美術館を活気づかせ、学芸員にとってよい経験になるのだそうです。また、1つの展覧会を1人の学芸員が担当することが多い中で、NVS4は7人の学芸員の共同作業で作られています。
7人の学芸員の視点よる、7人のアーティストの展覧会は、展覧会に込められたエネルギーも700%?開催間近のNVS4、楽しみに待ちたいと思います。(H.O.)
[取材協力:平野到学芸員]

ぎゅっとつまったSMFのホームページ、
一度のぞいてみませんか?

いつもSMF PRESSをご覧いただきありがとうございます。もし輪転機刷りの紙媒体でお読みでしたら、一度、SMFのホームページhttp://www.artplatform.jpをのぞいてみてください。トップページ右下のSMF PRESS のバナーから鮮やかなカラー版をご覧いただけます。ご興味があれば創刊号からカラーで見ていただくこともできますよ。
さて、このホームページには、SMFに関する情報がたくさん詰まっています。2008年の「アート竜巻フェスタ」の記録集『風の記憶』の抜粋や、2009年の「SMF アートのわっ!」の記録集『風の行方』の全頁もPDFでご覧いただけます。またこれまでの事業で制作した浦和、川口、川越の「アートマップ」も一見の価値ありです。
今年度からは「LINKS(つながる)」や「アートバンク」のコーナーが新設されました。トップページから左段の「SMFについて」をクリックしていただくと、上段に各種のタブが付いたSMFの説明ページが出ますので、そこからタブを選択してご覧ください。
SMFホームページの画面 「LINKS」のコーナーでは現在、県内で意欲的な活動を展開するアート系のグループやアートスペース、ギャラリーなど、約30件がリストアップされ、クリックすれば各々のホームページやブログから、それぞれの多彩な活動の情報を見ることができます。今後も充実させ埼玉アートの簡易ディレクトリーとしても使えるようになるといいですね。
準備中の「アートバンク」では、SMFのアーティストアドバイザーやプロジェクトに密接に関わってくださったアーティストの方々をはじめ、これまでのアート楽市やアート楽座に出演・出展したアーティスト、ラウンドテーブルにご参加いただき登録を希望された団体・個人などの活動情報を順次ファイル化して掲載していく予定です。
活動情報の記録・蓄積から連携、発信へ、新たなプロジェクトやコラボレーションの生成の場へと、SMFの次のステップに向けて、ホームページの役割もますます重要なものとなっていきそうです。SMFの活動やホームページについて、みなさんのご意見やご提言をSMF.info@artplatform.jpまでどしどしお寄せください。(M.N.)

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