アート竜巻フェスタ@HATOYAMA

2008年9月28日

浦和・川越・入間に続く《フェスタ》のアートの竜巻は、まさにその回転を速めながら埼玉に大きな渦を描くように進み、鳩山町を巻き込んで行きました。
 今回は根岸和弘氏の風車の敷設と共に、藤井香氏のディレクションによる〈風をおどる@−創作ダンス〉、入間市民による〈風をおどるA−「大田楽」より番楽〉が行われました。運営委員の山尾聖子氏とNPO法人「ACT.JT.入間市民音楽祭実行委員会」の協力により実施された〈大田楽〉の、「風のように現れ、風のように去っていく田楽法師たち」が入間から鳩山に舞いおりるという公演のコンセプトは、まさに《フェスタ》と合致するものでした。

大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)大田楽(鳩山)

続く〈創作ダンス〉は「埼玉県舞踊協会研究部」の協力により10作品が、藤井香氏率いるダンスカンパニー「転々」のメンバーによって上演されました。踊りの後には、その振り付けを真似て踊ったり、芝生の斜面を転げ回ったりする子供達の微笑ましい姿が見受けられました。

創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)創作ダンス(鳩山)

公演の舞台であるとともに、二つの公演を結びつけるのが根岸和弘氏による風車でした。前日に根岸氏とボランティアの学生によって中庭の芝生にはロープで下絵が描かれ、当日には朝から4班の敷設グループが組織されて風車の設置に取りかかりました。7月以降の各《フェスタ》と並行して制作が続けられた風車は比企丘陵の風を受けて穏やかに回り、その数は1000本に達していました。敷設作業の一方で、同大学作曲・音楽文化研究室の学生が音響システムの準備を行い、公演用に4本のスピーカーと2本の低音用スピーカーが会場を囲むように設営されました。《フェスタ》は、〈大田楽〉と〈創作ダンス〉の出演者・運営委員・大学関係者・学生ボランティアの総勢約70名の人員によって実施されました。

風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)風車(鳩山)

この《フェスタ》の大きな特徴は、大学という教育機関での実施ならではといえる学生ボランティアの若い活力によって運営が支えられた点です。7月から風車制作ボランティア等のコアメンバーとして電機大学の学生の参画が得られ、今回は総勢約40名が携わりました。アートと理工系の学生は一見すると違和感を覚える構図ですが、それは同大学のユニークな教育システムによって形成されています。
 昨年(平19)、創立100周年を迎えた電機大学の理工学部は1977年に現在地に開校しましたが、これまでにも多くの優れた理工学系の技術者を世に送り出してきました。2000年度に、その理工学部は「文理融合」をテーマとする情報社会学科を設置して、人・社会・コミュニケーションという視点から情報学を捉えるユニークな教育理念を打ち出してきました。さらに、2004年には同学科内にNPO法人「アートバーブズ・フォーラム」を設立して、地域社会と共に歩む大学のあり方について実践的な取り組みを開始しました。今回の鳩山における企画は、理工学部・情報社会学科・NPO法人の3つの組織がボーダレスに関わった点に特色があり、さらに同学科の実習科目において地域交流事業や社会貢献事業への参画が奨励されていることが、多くの学生ボランティアの動員を得た大きな理由として挙げられます。また今後は技術教育のあり方として、芸術を生み出す創造性と社会を支える科学技術の再統合を目指すことが重視され、芸術文化と科学技術分野の交流を推し進めていく必要があると思います。

実施しての問題点をあげれば、《フェスタ》の開催が日曜日だったので、スクールバスの運行が無く、路線バスの便数も平日や土曜に比べて少なかったこと、またキャンパスが普段のような学生の活気に溢れるものではなかったことです。今後、大学事務部や学生組織(自治会等)との連動性を持たせるための組織的な機能を構築することが求められましょう。大学のオープンキャンパスを主催する広報部門、学生が運営主体となる学園祭等との連携により、相互受益性を高めることで、一層潤滑な連携が可能になると考えられます。そして連携組織自身も、それぞれの目的を地域性の創造というよりダイナミックなゴールに向けて飛躍させることが出来るのではないでしょうか。

今後は、芸術文化に対する分化行政支援、産官学連携の支援、地域の農産業支援とうの異種分野のネットワークをいかに形成していくのかが重要なテーマとなるでしょう。そのために克服すべきことは、異種分野を文化的にも行政的にも深く結びつけるという社会的目標の設定と、それを担う人的資源への支援という、根本的なシステム作りだと言えます。むろん種々の連携事業に関する業務を第三者に委託することは、その目的が営利的なものとすり替わってしまう危険性も孕みます。一方で、運営委員が本務を持つ場合、その双方のバランスを保ちつつ、かつダイナミックに連携を推し進めることは困難を伴うことであります。しかし、だからこそ、それら連携に関する専門的な知識と技術を兼ね備える人材の育成とその活用等の社会的なシステムの提案が大きく期待されるでしょう。より多くの分野が、社会制度や短期的な目標を掲げて個々に活動を推進するだけではなく、それらの活動が連携しさらなる相乗効果を得ることは、個々の短期的な目標を満たすのみならずより社会に開いた目標の達成につながるでしょう。そのためには、各機関において連携のための専門部署を配置することが肝要であり、機関と機関を切り結ぶファシリテーターが必要であることを提言します。従来から美術館や博物館等の学芸員育成の制度は確立していますが、音楽分野においては、各種マネージメント分野の設立が、大学等の教育機関で盛んとなりつつある状況にあります。その人材に求められるのは、学芸的な専門知識のみならず、地域性創造によって、経済的な価値の立つ中心化をいかに推し進めるのかという、確かな理論とそれを動員するための実践力です。我が国における地域性創造を担う専門家としてのファシリテーターの育成と、おの専門職の確立によって、地域にある文化的な資源を、直ちに動員することが、地域性創造の未来に直接的に関わると考えられます。地域性の創造とは、ゼロからの創造ではなく、実際には個々の地域にある文化や産業を再発見し、いかにそれらに価値を与えていくのかという行為です。その理念は今回のアート竜巻フェスタを根本から支えるものでした。この企画が、文化・産業的な拠点となる地域の構成員と、ネットワーク形成の専門家であるファシリテーターの連携を機能的にする社会的システムの創成のために有意義な一つのケースとなり、そこから様々なリソースが活用されることを願います。

(柴山拓郎/作曲家・東京電機大学講師・本プロジェクト運営委員)